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【会報】ハーネスながの第18号

ハーネスながの 2004年12月 第18号
発行:長野県ハーネスの会 会長 原 哲夫
〒390-0304 松本市大村492-3  TEL・FAX(0263)46-9611 

第18号 目次

《特集》 『盲導犬の引退を考える』

・アンケート
・体験談
「マックスの引退に向けて」
「引退犬を飼育して」

《盲導犬ミニ知識4》 『県内の引退犬』

《連載》 ベストパートナー『盲導犬がくるまで』(4)

《追悼》 『ペンタスの花コンサート』
~稲田豊さんを偲ぶフルート演奏会開かれる~

《応援》
『会員の皆さんからのメッセージ』
『寄付・カンパ・募金箱』

《事務局》 
『再度、年会費納入のお願い』
『健康管理費の支払いについて』

《編集後記》

《特集》

『盲導犬の引退を考える』

現在、長野県内の現役の盲導犬数は27頭。その中には、そろそろ引退を考えなければならない年齢にさしかかったワンちゃんも何頭かいます。「盲導犬の引退」それは避けて通れないこと。引退に向けてユーザーはどんなことを考えてどんな不安や願いを持っているのか。そして、今までパートナーとして働いてくれた引退犬たちが、引退後も幸せな生涯を全うするために私たちにできることは何なのか。みんなで考えるきっかけになればと思い、この特集を企画しました。
 〈アンケート〉では、ハーネスの会の会員の中で、パートナーの年齢が10歳前後のユーザー、7名の方に回答していただき、引退を控えたユーザーの方の思いをお聞きしました。〈体験談〉では、昨年の夏に引退した盲導犬マックスの引退にまつわる話と引退後の飼育ボランティアの方との生活の様子を綴っていただきました。〈雑誌記事〉では、アエラに掲載された盲導犬の引退に関わる記事を転載させていただきました。

〈アンケート〉 ~ユーザーの7名にお聞きしました~

1.パートナーの現在の年齢と犬種、予定している引退時期はいつですか?

 ・9歳4ヶ月のラブ:来年あたりの引退を訓練士と相談中
 ・満10歳のラブ:あと1~2年後
 ・10歳ゴールデン:2年以内
 ・11歳のラブ:来春
 ・11歳のラブ:2005年春(満12歳で)
 ・11歳のラブ:来年
 ・11歳6ヶ月のラブ:早急に。7月からハーネスをつけておらず、現在はもうほとんど仕事をしていない状態。坂道を上るのがキツイ

2.引退後の引取先について決まっていますか?

  ア.決まっている→ 2名
  イ.決まっていない→5名 

3.「決まっている」と答えた人の引き取り予定先は、どんなところですか?

 ・知人が引き取り飼育することになっている。
 ・初代盲導犬の老犬奉仕をしてくださった地元の方が受け入れてくれる。受け入れ先の方は、グループホームの世話人をやられているので、引退後はセラフィードッグのような役割を果たすことができそうである。

4.「決まっていない」と答えた人は、引取先について、現段階でどのように考えていますか?

 ア.自分で世話をしたい。→2名
 ・1頭目のときも自分で看取った後、その後2頭目を使用し始めた。今回も自分で世話をしたい。今のところ3頭目の使用は考えていない。
 ・飼育に手がかかるので、引き取っていただく方に迷惑をかけたくない。別れが寂しい。
 イ.施設に返したい。→0名
 ウ.飼育ボランティアを探したい。→1名
 エ.その他(未定)→2名
 ・1頭目の時は、訓練士の方が真田町の飼育ボランテイアを探してくれ引き取られたが、すでに病気がちで8ヶ月ほどで亡くなった。今度はどうするか思案中。ただ、自分で世話をすると言うことはない。
 ・2頭目の盲導犬を使用しないなら自分で世話をしたい。使用するなら飼育ボランティアなど考える。

5.引退後は次の盲導犬を使用する予定ですか?

 ア.使用する→3名
 イ.使用しない→2名
 ・自分自身もう高齢なので使用の予定はない。
 ・しばらくお休みしたい。自分も歳をとってきて飼育が大変。
 ウ.まだわからない→2名 
 ・妻と盲導犬を共用することも含めて検討中。
 ・妻が元気でガイドができるようなら使用しないかもしれない。

6.引退後の犬の施設の必要性についてどのようにお考えですか?

 ・否定はしないが、個人宅にお願いできれば、それが一番良い。老犬ホームは、犬が家族の一員という感じではない。
 ・必要な人にとっては必要だと思うので、あるにこしたことはない。
 ・あればいいとは思う。
 ・必要だと思う。
 ・老犬は、団体生活よりも個人宅で可愛がってもらった方がより幸せだと思う。しかし、病気が重いとか、予定しないときに急に引退させなければならなくなったなど、事情があって引き取り手が見つからない犬にとっては、施設が必要な場合があるかもしれない。
 ・安心して任せられるなら使用者にとって必要。健康状態の悪い場合には、特に必要性を感じる。
 ・ラブラドールは、イボができやすい犬種なので高齢になると手が掛かる。そんな状態で、施設に入れることがいいのか悪いのか、よくわからない。

7.引退にあたっての不安や困っていることは、どんなことですか?

 ・良い飼育者が見つかるかどうか。
 ・引退犬の飼育費の負担をボランティアにかけてもよいものかどうか。
 ・初代の盲導犬を最後まで見てくださった方に2頭目をお願いするので引退後の不安はない。
 ・次も落ち着いた賢い犬がパートナーになってくれるかどうかが心配。長年盲導犬と歩いていて左肩を痛めているので、新しいパートナーが力任せに引っ張ったり、しょっちゅう注意をしなければならない犬だと非常に困る。
 ・別れが辛い。
 ・病気にならないかと心配。
 ・新たな盲導犬との訓練への不安。 
 ・現在の犬の状態。特にトイレの面。午後11時にトイレを済ませても朝まで待てない。家の中にオシッコやウンチをしてしまう。

8.ボランティアの方に飼育をお願いするにあたって、ユーザーとしてどんなことを希望しますか?

 ・ユーザーに気を遣わず、伸び伸び楽しく可愛がっていただきたい。
 ・今までの生活と同じように家の中で生活させて欲しい。いつも家族がそばにいて、家族の一員として可愛がって欲しい。
 ・可愛がってもらえればいい。
 ・できるだけ衛生的な環境で飼育して欲しい。

〈体験談〉 ~盲導犬を引退させて&引退犬を引き取って~

『マックスの引退に向けて』

松本市  原 哲夫

昨年8月にマックスという9年間歩みを共にした盲導犬を引退させて、市内のご家庭に飼育の総てをお願いした。マックスは私にとっては最初の盲導犬、雄のラブラドールリトリーバーで、被毛はイエロー、体重はおよそ34キログラムでやや大型ではあるが均整のとれた体格とおっとりした性格を備えた犬であった。引退させたときはちょうど満11才になったばかりだった。
マックスの引退を現実のものとして考え始めたのは、10才になるころからだった。しかし、そのころは歩行速度も歩き方にも衰えは感じていなかった。動物病院での定期検診でも健康面は加齢による病気や老化を示す症状は全く現れていなかった。しかし、外見的には寄る年波には勝てないのか首元の皮は弛み、口髭には白いものがちらほら混じり、被毛の艶もなくなり、かっての柔和なハンサムなルックスもじいちゃん顔になってきたようであった。また、歩行中に不規則な排便をすることがときどきあり、盲導犬訓練所からは老化の現われかも知れないと言われていた。
 私はマックスを引退させる際には次の2点を実行したいとかなり前から漠然とながら考えていた。そうすることで長年連れ添ったマックスに対して、ユーザーとしての私はせめてもの感謝を表したいと思っていた。一つは、引退させる時期が来たらできるだけ早く引退させて、新しい家庭にその後の飼育をお願いしたいということである。ユーザー自身の、「かわいそう」とか、「寂しい」と言った感情で引退時期を引き延ばすようなことはしないということであった。盲導犬は一般的には10才から12才を目途に仕事から引退させる。どこの盲導犬訓練所でも概ねこの時期は同じである。盲導犬訓練所にとっては次の犬の訓練や準備状況もあるので単純にユーザーが希望する時期に引退させることはできない。しかし、私はマックスが10才を過ぎたらできるだけ早い時期に引退させてやりたいと願った。それは、元気で余力が十分ある内に新しい家庭での新しい出会いと体験を広げられるようにと考えたからである。もう一つは、引退後の新しい生活の場については私自身が確かめて決めたいということであった。現在、盲導犬を引退させて新しい飼育家庭を探す場合は、ユーザー自身が探して決めることもできるし、出身の盲導犬訓練所に総て任せて訓練所に登録しているボランティア家庭にお世話になることもできる。ただ、 訓練所にお願いした場合には、最終的には理解ある飼育ボランティア家庭に引き取られるのであるが、そんな家庭が引退と同時に見つかることは少なく、ときには1ヶ月から数ヶ月を訓練所の犬舎のサークルの中で待たなければならないことも多い。また、飼育家庭がユーザーの居住地からは遠く離れた県外の地域になることもある。
 結局、マックスは満11才の誕生日の1週間後にハーネスを外すことになった。
また、幸いにもマックスの場合は、9年間主治医として診ていただいていた動物病院の先生が、いわゆる「仲人役」となって飼育家庭とユーザーの相互を紹介して結びつけて下さった。そんな幸運にも恵まれてマックスは私の願う形で引退の日を迎えることができた。
 マックスと私は5月の下旬に動物病院の待合室で先方の茅野さんご夫婦と見合いをすることになった。仲人さんからは、茅野家のこれまでの愛犬飼育の様子と盲導犬をリタイヤした犬への関心の高いことも聞いていたので、マックスの新しい生活環境については全く不安はなかった。この『お見合い』の席で私は、次の3点についてお願いした。「引退後の飼育と健康管理に要する費用は総て先方で負担していただくこと」、「飼育は家族と同じ空間(室内)でしていただきたいこと」、更に、「私がマックスと会いたいと希望するときは会わせていただきたいこと」、等であった。
茅野さんはこれらの要望を総て快く受け入れて下さった。その結果この縁談は前に進むことになった。
 5月の最期の日曜日に私と家内はマックスを連れて茅野家を訪問した。茅野さん宅は我が家から歩いて20分ぐらい、車なら5,6分といったところで、直線距離では2㎞余りぐらいだろう。私の日常生活の中ではめったに足を向けない地域であるが、子供たちが通っていた中学校の直ぐ近くで、よく出かける県民文化会館の公園を挟んで対称的な位置になる。こんな近いところに縁があったことを不思議に思った。
 茅野さん宅では、既にリビングの陽当たりのよい南隅にマックスのためのベッドとして手作りの木製サークルが用意されていて、その中にタオルケットが敷かれていた。マックスに、「ベッド」と声をかけると以外にもその中に入り、間もなく伏せの姿勢になった。そして私たちがテーブルで話に花をさかせている間、その場所で一層リラックスしているようであった。茅野さんご夫婦からは、ご家族の様子やこれまでに共に暮らしたワンちゃんたちの話を聞かせていただいた。リビングや庭の芝生の広さからも人間の尺度で見ればマックスの新生活は羨ましいほどの悠々自適の毎日かと想像した。

6月に入ると私の代替え犬訓練の期間が8月3日からと決まった。それに伴い、マックスの茅野家への引き渡しは、その前日ということになった。そしてほぼ1ヵ月間かけて、マックスは『慣らし保育』ならぬ『慣らし訪問』を何回か繰り返すことになった。
 6月下旬から最初は週1回、後には週2回の間隔でマックスは茅野さん宅で文字通り“デイケア"という形で慣らし体験を重ねた。私が職場にいる時間内の午前10時半ごろ迎えに来ていただき、午後3時ごろ再び職場に連れてきていただくという方法であった。第1回目こそ怪訝な表情で茅野さんに連れられて行ったが、回を重ねるごとに尾をぶんぶん振って喜んで行くようになった。
引退する数日前に、職場の同僚たちがマックスとのお別れの会を開いてくれた。
仲間のユーザーとそのワンちゃんやマックスに親しみを感じていた友人たちも集まってくれた。県の森公園の一角にシートを敷き、ウーロン茶だけの簡素な集いではあったが、記念品として《マックスありがとう》という文字が刺繍されたバスタオルと花の首輪がプレゼントされるなど、心温まるひとときとなった。
 8月2日(日)は私と家族は朝から落ち着かなかった。マックスには勿論その日の意味など解るはずもなく、いつもの朝のようにグルーミング(この日は特に入念に)とトイレ、朝食をすませた。近くに住む叔母や従姉妹も見送りに来てくれた。
約束通り、午前9時過ぎ、茅野さんご夫婦がマックスを迎えに来て下さった。お互いに、「たかが犬の受け渡しではないか」と思いつつも、照れくさくなるようなやや儀式張ったあいさつになってしまった。そして茅野さんがテーブルの席に着いた。
そのとき、全く予想していなかったことが起こった。それまで私の近くにいたマックスが、スルスルと移動して茅野さんご夫婦の間の足下でダウン(伏せ)したのである。まるで、「主人はこの人たち」と明瞭に意思表示しているかのようであった。1ヵ月間に渡って繰り返したデイケアの慣らし体験が効き過ぎて、別れの前に新主人宣言をされてしまった。家の玄関前で9年間着けてきたハーネスを外して、いよいよ最後の感謝の意味を込めてマックスの首を抱きしめてやった。それが終わるとマックスは全く躊躇することもなく茅野さんの車のハッチバックに元気よく飛び乗った。ここでも周りの人たちの期待は見事に裏切られ、私は拍子抜けしてしまった。
 テレビの動物番組で盲導犬の引退や引退後の再会場面がよく流される。ほとんどお決まりのワンパターンで、ユーザーは寂しさと涙で犬はどこか悲しそうにという図式。いろいろあって良いのだろうが、犬は人が考える以上に順応性の高い動物と聞く。必ず新しい楽しい生活が待っているはず。
私たちは『別れ』というより『新しい門出』と考えた。 そして、今回、多くの仲間のおかげでマックスの『新たな門出』に至るいくつかのできごとを楽しませてもらえた。

『引退犬を飼育して』

茅野 永

我が家は20年余り犬と関わり、迷い犬の引き取り、子犬の誕生、母犬の病死、子育て、病気や怪我での通院、そして老犬との悲しい別れなど、多くの体験をしてきた。3代目のシェルティーを亡くし1年半ほどした頃、盲導犬を取り上げた番組が数多く放映され、特に「盲導犬クイールの一生」を涙ながらにみて、人のために長年頑張ってきた引退犬のお世話をしてあげたいと考えるようになった。
 たまたま、世話になった動物病院の院長先生に話したところ、マックスの老後先を探しておられた原さんを紹介され、引き受けることになった。
マックスが我が家に馴染んでくれるか心配したが、事前のホームステイが功を奏し最初からリラックスした様子で、何年も前から我が家に居たと錯覚するくらいであった。
 日課の散歩は、朝は私と夕方は妻と、約1時間程我が家から半径2km位のところを散策している。最初は、交差点があるとどちらに進みましょうかと言わんばかりの顔をしたが、今は自分の行きたい方に進むようになりすっかりペットが板に付き、ご近所のアイドル犬になっている。
 マックスは、時々女鳥羽川に架かる橋を渡りたいそぶりを見せていたが、渡らせたことがなかった。今年の夏の朝、ふとマックスの行きたい方に歩かせてみたくなりそのまま橋を渡らせたところ、慣れた足取りで脇道を抜け原邸に着いたのである。
自分も原さんご家族もおどろき、そして感激した。いっときの再会の後、マックスは時々後ろを振り返りながら帰路についたのであるが、何かを悟ったのであろうか、その後二度とその橋を渡りたい素振りを見せない。
 前の犬は車酔いで出来なかったドライブや小旅行ができるようになった。問題は宿泊先で、あちこち問い合わせた結果引退盲導犬との条件付きで、同室宿泊を快く受け入れていただける旅館を見つけることが出来た。女将さんはじめ従業員の皆さんから歓迎され、マックスもそれに応え優等生的振る舞いで、皆さん感心されていた。盲導犬への深い理解があってのことと、心から感謝した次第である。 
 縁あってマックスの老後を引き受けることになったこと、本当に嬉しく思っている。老猫と仲良く並んで寝ていたり、昔のことを夢見ているのであろうか、足をピクピク動かし寝言を言いながら寝ていたり、庭の芝生でお腹を上にしてごろごろしたり、私にじゃれて抱きついたりする姿を見ると、すっかり我が家に馴染んでくれたと思う。家の中に暖かな風が吹き、夫婦の会話も柔らかく穏やかになり、私達がマックスから癒されていることを実感している。 
 介助犬に関する報道や身体障害者補助犬法の施行により、介助犬への理解が深まってきていることは誠に喜ばしい。これから益々介助犬ユーザーが増え、障害者の皆様の生活がより快適になっていくものと思うが、一方で介助犬が道具のように使い捨てにならないよう、大切なパートナーとして生涯を全うできる環境を整えていくことが必要と考える。
微力ながらマックスの飼育を引き受けることで、お役に立てれば幸いである。
マックスが一日でも長生し充実した余生を送れることを願いつつ・・。

《盲導犬ミニ知識 4》

『県内の引退犬』

現在、長野県ハーネスの会の会員で盲導犬をリタイヤした引退犬を飼育している家庭は3家庭ある。そして4頭の犬がそれぞれの家でリタイヤ生活を送っている。また、これまでに引退犬飼育ボランティアをした経験のある会員も何人かいる。引退犬飼育ボランティアの中には、これまでに6頭の引退犬を看取り、現在も2頭を飼育している上田市の清水さん。御代田町の山本さんは、引退犬飼育ボランティアとして2頭の最期を看取ってきた。先の清水さんはこの分野で14年のキャリアを持ち、全国的にも少ない例の一人である。引退犬を多く世話してきた家庭は、盲導犬協会に引退犬飼育ボランティア登録をしており、それらの協会に引き取られた犬を依頼されて継続的に飼育しているケースが多いようである。そのため長野県内で飼育されてきた引退犬の中には現役の盲導犬時代に県外で活躍していた犬もかなり多くいた。
引退犬が何歳ぐらいまで生きるかの正確なデータはないが、清水さんの経験では平均15才ぐらいではないかという。本会の記録の中で最長寿は、千曲市のユーザーと13年間歩き、清水さんが最期の3年間を世話をして満18才の誕生日の直後に亡くなったユールである。次に茅野市の近藤さん宅で6年間暮らし17才10ヶ月で逝ったサリーがいる。
 尚、健在の引退犬では、長野市のユーザーから7年前に引退し、同じ長野市の竹原動物診療所で飼育(入院ではない)されているキュートが満17才4ヶ月で最高齢である。

(原 哲夫)

《連載 ベストパートナー》

『盲導犬がくるまで』(4)

岡谷市 北沢とも江

対面式の日が来ました。少し、霞がかった春の陽射しの中で、中庭のベンチに座って待っている私の前に、黒いラブラドールがあらわれました。「北沢さん、ゼーダーですよ。すばらしい能力を持った盲導犬です。名前を呼んで、魔法のクッキーをいっぱいあげてください。」盲導犬協会の施設長さんが、にこにこしながらおっしゃいました。魔法のクッキーとは、犬たちが今まで食べたことのないおいしいお菓子をあげることで、これから主人となる私たちと犬との関係を円滑にするための秘密兵器のようなものです。この協会では、最初の内、このクッキーを使って上手に主人との関係を作るようにしています。「ゼーダー、カム」と呼ぶと、ゼーダーは一目散にとんできて、わたしの手の中のクッキーを飲み込んでしまいました。その勢いに「ウェイト」をかけるのを忘れてしまったほどです。やっぱり、昨日中庭で見た犬が私のゼーダーでした。部屋にあったハーネス(犬用胴輪)についていたゼーダーという名前もこの子のものでした。
パートナーと合流してからの生活は、すっかり忙しいものに変わりました。訓練は自分の犬と仲良くなることから始めます。毎朝30分程遊ぶと、その後、リード(ひも)やハーネスの使い方を習って、まずは、協会の周りを歩くことから始めます。
次に少し離れた住宅地、繁華街、デパート、電車、バス、レストランなどでの歩行訓練へと移行していきます。これからの日常生活で使う場所を想定しての階段や横断歩道、エレベーター、エスカレーターなどでの指示の出し方などを教わりました。
センターに帰ると、犬の手入れの仕方、トイレのさせ方、犬たちの歴史や病気、その予防、また盲導犬に関する法律なども学びます。
 現在ではほとんどの交通機関に、盲導犬との同伴が認められています。飲食店やホテルの旅館などでの宿泊に関しても、厚生省から盲導犬の同伴を認めるという通達はでています。しかし犬との同伴がOKというわけではありません。少しでも理解を深めてもらうために、私たちの側でもいくつかのマナーを申し合わせています。
その中には、犬の毛を落とさないために洋服を着せること、また、宿泊した場所では粘着テープなどで掃除をしてくることなどが含まれています。しかし、これは日本だけの習慣ですので外国の方たちは不思議に思うそうです。
 卒業試験も無事に通過し、明日はいよいよゼーダーとともに我が家に帰宅することが決まりました。協会の訓練士全員とお別れのパーティーが開かれました。今回の合宿訓練には男性が1名、女性が3名参加していました。盲導犬を希望する理由は様々です。67歳の男性は体力を維持するために、散歩がしたいという理由で訓練に来ていました。その後の風の便りでは、散歩どころか、行動範囲が広がって、今では自分の人生もすっかり変わったと喜んでおられるそうです。そのほか主婦としても自立をしたいという希望の方も盲導犬とともに近所の店で買い物ができたことを大変喜んでいました。
 ゼーダーと我が家へ帰る日の明け方のことでした。別棟にある犬舎の中で、数頭の犬が遠吠えを始めました。私がセンターに来て初めて聞く盲導犬たちの遠吠えです。すると、私の部屋のハウスの中からゼーダーが仲間の声に応えるように遠吠えを始めました。その遠吠えは明け方の闇の中へ吸い込まれていくように消えていきました。まるでお別れの儀式のようでした。ゼーダーはオーストラリアで生まれ育った犬です。故郷を遠く離れ、今また見知らぬ街に旅立とうとしています。盲導犬として私の一部となるために。胸がいっぱいになってきました。ゼーダーがとても愛おしくなりハウスから出してぎゅっと抱きしめてしまいました。
 その朝は、もうひとつの感動がありました。リネン室へ行くと、協会のボランティアをしているOさんがいました。盲導犬育成事業にたくさんのボランティアが協力しています。繁殖犬のボランティア、生後2か月から1歳になるまでの間、一般家庭で育てるための里親(パピーウォーカー)、盲導犬が引退した後預かる引退犬ボランティア、その他様々な形で盲導犬と使用者となる私たちを支えてくださる方たちの存在もこのセンターにきて初めて知りました。Oさんは、パピーウォーカーと引退犬ボランティアをしたときの経験を話してくださいました。手塩にかけて育てた犬が盲導犬に不適格になったときの気持ち、その犬をペットとして引き取り、さらに引退した盲導犬も引き取ったときに、盲導犬になる犬の桁外れの優秀さに納得した話、そして盲導犬の最後が如何に立派だったかなど、 静かな口調で話され、最後にこう付け加えられました。
「私たちからお願いがひとつだけあります。どうか、この子たちをかわいがってあげてください。」
心の底から染み出るようなそのことばは、今でも私の心に焼き付いています。

《追 悼》

『ペンタスの花コンサート』 ~稲田豊さんを偲ぶフルート演奏会開かれる~

 病気のため今年1月に亡くなった盲導犬ユーザーの稲田豊さん(享年59歳、穂高町、本会会員)をしのぶフルートコンサートが9月19日、松本市のあがたの森文化会館講堂で開かれた。
 稲田さんが生前通っていた「オリイシ・フルート教室」と、愛好家でつくるアンサンブル団体「フルート・コンサート・ソノリテ」(いずれも居石ひとみさん主宰)が主催し、追悼のメロディを奏でた。
コンサートには、教室の生徒やアンサンブル団体のメンバーら45人が出演し、稲田さんが取り組んできた楽曲の中から、居石さんとデュエットした「亡き王女のためのパヴァーヌ」など、約20曲を演奏した。居石さんによるソロ演奏もあり、約160人が埋めた会場をフルート特有のやさしい音色が包んだ。
稲田さんは16年前に居石さんの教室に通い始めた。病気と闘いながら熱心に練習を重ね、その姿が他の生徒たちに感動と意欲を与えていたという。アンサンブル団体にも参加していたほか、老人保健施設や病院でのボランティアコンサートなどにも数多く出演していた。10年前からは盲導犬のペンタス(アフリカ原産の花の名前)と生活を共にしており、教室のレッスンや演奏会のステージにも一緒に上がっていた。
当日は全国の花屋さんから集めたというペンタスの花の鉢植えがびっしりと並べられ、白、赤、ピンクの細かなペンタスの可憐な花がステージを縁取っていた。居石さんは「もっともっと生きていてほしかった」と偲んだ。
 コンサートは、県内の盲導犬の利用者と支援者などでつくる「長野県ハーネスの会」の活動を支援するチャリティー演奏会としても位置づけられ、終了後、主宰者の居石ひとみさんから会場で寄せられた募金の全額が本会に贈呈された。

(「市民タイムス」9月20日号から一部引用)

《応 援》

『会員からのメッセージ』

郵便振り込み通知の通信欄に寄せられた会員の皆さんのメッセージを紹介させていただきます。

・ハーネスの会でご活躍下さる皆様のご苦労に心から感謝の気持ちでいっぱいです。何とぞお身体に充分御注意なさってお暮らし下さい。(生坂村・宮澤さん)

・会の御発展をお祈りします。(松本市・今村さん)

・地道な長年の活動が実って、パートナーズ会議が開催されたのですね。良かったです。益々のあたたかな輝きの会であって下さい。(波田町・鈴木さん)

・会員がもっと多くなるように、この会の存在を知ってほしいですね。私が新聞で知った様に、何らかの形で皆さんの理解を呼んで関心を持って貰いたいですね。(長野市・倉石さん)

・ご活躍をお祈りいたしております。(諏訪市・伊藤さん)

・状況報告他、ご丁寧に通信下さって有り難うございました。高齢なことと、他にも関係していますことも数カ所あり、僅少ですが僅かのご寄付のみに留めさせて戴きます。御元気に。(松本市・木島さん)

・“ハーネスながの"いつも楽しみに読ませていただいています。会費の残りはわずかですがハーネス基金に入れていただければと思います。(佐久市・黒澤さん)

・少額ですが会費プラスカンパとさせて下さい。(千曲市・古内さん)

・会員の皆様、ご活躍なさっている様で喜んでおります。イベントがあっても身体が悪いので行かれません。どうぞ頑張って下さい。私共は陰ながら見守っています。レスキューや聴導犬にも寄附しているので、高額の援助が出来ず申し訳ありません。(塩尻市・宮坂さん) 

・老齢のため退会させていただきたく思います。長い間有り難うございました。(塩尻市・飯田さん)

・ハーネスの会が発展して、安心して医療が受けられるようにと願っております。(松本市・三村さん)

・オリンピック、大型台風、水害、異常な暑さと変動の夏となりました。ワンちゃん達もさぞ大変だった事と思います。過ごし良い秋もすぐですね。お身体に気をつけて頑張って下さい。(長野市・多田さん)

・盲導犬の為にいつもご努力と大きな愛情をありがとうございます。テレビのドキュメントやいろいろで盲導犬を見る度に熱いものがこみあげ感動です。そして力をもらっています。(松本市・市橋さん)
『寄付・カンパ・募金箱』

本年度も多くの会員の皆さんからご寄付をお寄せいただいています。ありがとうございます。
 事務局では、年会費2000円を超える受領分につきましては全て「寄付金」としてハーネス基金に入れさせていただいております。寄付金を寄せていただいた会員の紹介は、お名前のみ本年度末の会報に掲載させていただきます。
 尚、会員以外の個人からのご寄付はその都度お名前のみ会報で報告し、団体などからの場合は団体名と金額も報告させていただきます。

 〈会員以外の個人〉

松本市にお住まいの松本英雄・かの子様ご夫妻から大変高額のご寄付をいただきました。「ハーネスの会は未だ小さく、これから発展して欲しいから」と、温かい励ましのお言葉もいただきました。感謝しつつ身の引き締まる思いで松本さん宅を後にしました。
 全額ハーネス基金に入れて目的に沿って使わせていただきます。(9月)

 〈団体・施設の募金箱〉

・6月:松本市 瑞松寺様 募金箱              4,532円

・9月:稲田豊さん追悼"ペンタスの花"コンサート 募金箱 74,132円

・10月:松本市 アップルランド豊丘店様 募金箱      5,720円

皆さん、本当にありがとうございました。

《事務局》

『再度、年会費納入のお願い』

2004年度会費(2000円)の未納の会員の方に再度振替用紙を同封させていただきました。恐れ入りますが納入をお願い申し上げます。
 既に振り込みされた後に用紙が送られた場合には、誠に申し訳ありませんが廃棄して下さい。

『健康管理費の支払いについて』

本年度の健康管理費(5,000円)を盲導犬ユーザーと引退犬飼育者の指定の口座に振り込みました。お確かめの上、不明な点がありましたら事務局(下記の電話番号)にご連絡下さい。   
事務局 田中

《編集後記》

 師走になったというのに昼間はポカポカと温かい陽射しが射し込んでいます。昨日は、関東地方では夏日を記録したのに対し、北海道では30cmの積雪だったとか。やはり、最近の気象は異常としか言いようがないですね。
 さて、本号は「盲導犬の引退」を特集させていただきました。かねてより取り上げてみたいテーマであったため、ついページ数が増え、文字の多い会報となってしまいましたが、いかがだったでしょうか。よろしかったら感想などお寄せ下さい。
最後になりましたが、ご多忙の中、アンケートに協力してくださったユーザーの皆様、ありがとうございました。(池田)

(編集係 原)

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掲載データ:2004年12月01日に記載
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